Kindleで読んだ漫画を紹介していきます。

 「既刊10巻ぐらいまで」「俺は面白かった」「メジャーな作品はわざわざ書かない」 ぐらいの緩い縛りで。

 なお1〜12はこちらです。
 Kindle Fire HDX 7を買ったら漫画購入が止まらなくなった (1~5)
 Kindleで読める、面白かった漫画 (既刊10巻以下) (6~12)

 

ハクメイとミコチ/樫木祐人


ハクメイとミコチ 1巻 (ビームコミックス(ハルタ))
樫木 祐人
KADOKAWA / エンターブレイン
2014-02-14


 主に女子キャラが集まって他愛もない会話をする作品を「日常系」と呼んだりしますが、俺はこういった作品世界をこそ日常と呼びたい。

 働いて、遊んで、食べて飲んで寝て、また働く。地に足の着いた生活、そんな日常。「こびと」の、ですが。

 ハクメイとミコチは森に住むこびと。二人の暮らしぶりを眺めるのがただ楽しい。何が楽しいかと言えばその生活力の高さ。

 ハクメイはその手先の器用さを活かして修理屋として働く。何でも直すし、大工もできる。放浪生活が長かったため、野宿その他のサバイバル術にも長けている。一方のミコチは裁縫、料理の腕で食料品、生活雑貨の卸売りを営む。こびと達は不思議パワーで生きる妖精や精霊の類ではないので、働きながら生活の糧を得る必要があるのですね。

 で、二人が揃えば生活に必要な物は大体作れちゃうから、この作品はDIY漫画のようなテイストを持ってきます。人が何か作ってるのって見てるだけでも楽しいじゃないですか。

 衣食住なんでもござれ。料理を作り、服を作り、野宿用のテントも作っちゃう。それらが話の中心になるばかりではないのですが、俺はこういう世界のディティールにどうしようもなく惹かれます。


 柿の葉とエノコログサのテント。発想の起点が「9cmのこびとならどうするか」という所にあるのが面白いですよね。



 運送業を営むゴライアスオオツノハナムグリ。虫達は家畜やペットではなく言語を解する社会の一員です。こういった細かい設定もこびと世界のディティールを詳細にしています。

 詳細なディティールというのは設定だけではなく、絵に関しても同じことが言えます。精緻に描き込まれて、それでいてゴチャゴチャせずに見やすい絵柄。細々とした部分がいちいち丁寧で、画面のどこを見ても飽きません。だからでしょうか、なんか繰り返し読んじゃうんですよねこの漫画。今kindleに入っている本の中でリピート率最高かも知れません。

 kindleもiTunesのように再生回数が記録されたら面白いなあとちょっと思いました。あるいはトータルの読書時間。費やした時間を見て喜びを感じるのか凹むのかは分かりませんが。両方な気がする。


バーナード嬢曰く。/施川ユウキ




 表紙で大体どんな本か分かっていただければと。

 バーナード嬢(自称)こと町田さわ子は図書室の常連だが、決して読書家ではない。格好良い名言がありそうな本、読んでいたら賢そうに見える本、自慢できそうな本を読んで如何に自分を読書家に見せるかということにのみ心を砕く。


 お前何で読書家キャラ目指してるんだよ。

 読書にかぎらず音楽や映画、どんな趣味の世界にも嫌なスノッブ野郎ってのはいますが、スノッブにすらなれないさわ子の薄っぺらい発言でそれをズバズバ斬り捨てる。「自称読書家」の本音なんてこんなモンなんじゃねーの? と。


 あるいは、ろくに読書をしていなくたって「本が好き」と言って良いんだ、というメッセージと捉えるべきでしょうか。所詮趣味、楽しめればそれが最上の事で、深い浅いは関係ないんですよ。と、浅い側の人間としては言いたい。

 そしてこの本はテーマ(読書)に対する造詣が深くても浅くても笑える稀有な漫画です。それはSFファンの神林さんというキャラの登場で不動のものとなりました。

 めんどくせぇ本読み代表としてのSFファン。その面倒くささはSFファン自身からもしばしば自虐的に語られます(今日の早川さんとか)が、この神林さんも面倒くささを十二分に発揮して、ボケに突っ込みに大活躍。グレッグ・イーガン作品に対する仮説の所で俺は大爆笑してしまいました。


 ああ、それでいいんだ。いいんだよな!! と勇気づけられるじゃないですか。リテラシーのくだりは納得できすぎ、頷きすぎで首折れる。これハードSFに限らず全ての物語においてそうですよね。

 読書がテーマなんで名言・格言を引用したネタが多いんですが、この作品自体がオリジナルの名言の宝庫。端から引用してたらきりがない、というか軽く引用の定義を逸脱する量になってしまうので自分で読んでみてください。俺は施川ユウキ作品の中では一番好きです。


25時のバカンス 市川春子作品集II/市川春子




 「虫と歌」に続く市川春子短篇集第二弾。みんなとりあえず両方読めばいいと思うよ。俺なんか紙の本でも持ってるのにまた買っちゃったよ。今回も全編人型ミュータントのお話。

 俺はいかにもSFな舞台設定のものよりは、日常にいきなりイレギュラーが入り込んでくる類の話が好みです。

 というのも、市川春子作品の登場人物は未知との遭遇に対するリアクションが薄いというか、緊張感がないから。だから現実に近い世界のほうがそのとぼけた味わいが引き立つんですよね。


 表題作「25時のバカンス」の乙女姉さん(32)(かわいい)。深海生物研究室の「名物美人天才科学者」ですが、研究対象の貝に内蔵や脳を食いつくされて、中身が空洞の貝殻人間になってしまいました。中には記憶を共有した貝が3匹入っている。


 時々勝手に出てくる。

 カメラマンの弟、甲太郎の成人祝いのために休暇をとった乙女姉さん(かわいい)は彼にだけその秘密を打ち明ける……んですが、本人も中の人達もあんまり真面目に隠す気がなくて、他人の前でもすぐポロリ。


 前にも書きましたけど、俺はこの作家さんの取る「間」が大変に好きなのです。会話の間、演出の間。シリアスな話にも大抵こういった軽妙かつ脱力系のやりとりが挟まれていて、そんな掛け合いをする全ての登場人物が愛おしい。

 中でも本作の乙女姉さん(かわいい)は個人的大ヒット。研究室の副室長かつエース研究者。無愛想だが同僚や部下からは全面的に頼られ、愛される。

 そして重度のブラコン。消化しきれなかった休暇を弟と過ごすにあたり、買ってきた服を鏡の前であてがいながら


 あらやだこの人ちょうかわいい。

 「意味がわからない……」というのがすごくいい。このセリフと大量にある紙袋から、普段は着飾ることに全く興味がないこと、それでも弟を迎える為にあれこれ悩んで力技でなんとかしようとしていること、そしてそれに挫折していることが分かります。少ないセリフとシンプルな画の中に説得力をもった表現がある。こういう描写は全編通して淡々と、かつ細やかに続きます。

 要するに乙女姉さんはかわいい。頭脳明晰な残念美人というのは実に良いものですね。

 市川春子は今アフタヌーンで連載中の「宝石の国」も面白いんですが、こちらは序盤から登場人物が非常に多くて混乱を招くので短篇集から入るのがお薦めです。合わせてもまだ4冊しかないから気に入ったらどうせ全部買うことになると思うんですけどね。



 まとめといいつつ3冊だけですが、今後も継続的にこういった形で紹介していって、最終的に使えるまとめになれば良いなあ、などと考えております。