スパイスビーム (ニチブンコミックス)スパイスビーム (ニチブンコミックス)
著者:深谷 陽
販売元:日本文芸社
発売日:2008-02-18
おすすめ度:5.0



 料理がいかに旨そうに見えるかで漫画家の実力が量れる、なんて話を聞いたことがあります。さて、この「スパイスビーム」に見る、作者・深谷陽の実力とは。

カオ・パッ・ガバオ・ガイ
カオ・パッ・ガバオ・ガイ(鶏肉のバジル炒めかけご飯)

ゲーン・ペット・ガイ
ゲーン・ペット・ガイ(鶏肉のレッドカレー)

 読み終わったあと、タイ料理を食いに出かけた俺がいましたよ。
 と言うわけで、ちょっとガラの悪い街にある、謎のタイ料理店「チャーン」の物語。職を失い、彼女に振られ、失意のドン底、半ばヤケクソ気味になっていた主人公のコージはもうどうにでもなれといった気分でチンピラに絡まれていた女の子を助ける。

 無事に女の子を逃がすことに成功したものの、基本ビビリのコージ君、逆切れのチンピラに追い回されてあるタイ料理屋に逃げ込んだ。怒り心頭のチンピラが待ち構えている所へ出ていくわけにも行かず、とりあえず注文した料理にコージは「射抜かれる」。

 この漫画の素晴らしいところ。料理だけじゃなく、食べてる人の表情。とにかく旨そうに食う、食う、喰う。幸せそうに、夢中になって喰う。

トローリ半熟半熟の卵が。

 料理漫画の価値が「旨そさ」で決まるのだとしたら、この漫画の持つポテンシャルはもう「ドラえもん」クラスだと言って良いでしょう。(参考:旨ドラ

 店内に求人の貼り紙を見つけたコージはその場で就職を願い出る。そして幾度となく出会うことになる、旨そうな顔。

 この店の料理を食った人間は皆一口で

ドン!
ドン!

ドカン! と射抜かれて、

来たでしょ
「来たでしょ」

辛いこと、悲しいことを忘れてただ一心に食べ続ける。

 そこには素材の良さ・職人の技に関する薀蓄、「グレていた息子が料理のお陰で更生を!」などといった口煩い説教はありません。あるのはただ圧倒的な料理のパワー。料理は旨けりゃそれでいい、という説得力。

 で、その誰もを虜にする料理を作っているのがこんな人。

ボス
何人か殺してそうな

 どう見ても堅気に見えないオーナー。普通のお客に混じって出入りする、やっぱり堅気に見えない怪しい面々。そんな中で働いているうちにだんだん慣れていくコージ君を見てニヤニヤしてしまう。

 働き始めた頃には絡まれていた街のヤンキーたちと気軽に挨拶を交わす仲になったと思えば、ナイフを持った殺し屋の前で黙々と料理を続けられるまでに成長していく。

 チビでビビリだけど一生懸命のいい奴。誰かのためにガタガタ震えながらも暴力に立ち向かえる、読んでいて応援してやりたくなるキャラ。この漫画は料理の描写だけでなく、登場人物の造形もまた心地良いんです。

 ラストの突拍子もないオチ、描き下ろしのオマケ漫画も含めて綺麗にまとまった作品。料理漫画と言えば口からビーム吐くような作品だと思っている方も是非。

 ちなみに俺はビーム吐くほうも大好きです。