安倍夜郎と言えば「深夜食堂」で有名ですが、耳かきマニアとしては断然こちらです。6年越しの単行本化。長かった。

 ストーリーはあって無きが如し。泣きぼくろが印象的な淑女、山本さん(38)が老若男女ありとあらゆる客の耳を優しく攻めたてよがり狂わせるという漫画です。なんたるエロさよ。
 相手の膝に頭をあずけ、自分では届くことのかなわない急所を刺激される。耳かきという行為が持つ潜在的な淫靡さを殊更に強調しているという点において、他の耳かき漫画(狭いジャンルだ)と一線を画します。

耳の内側の壁がゴッポリとはげ落ちたような感覚のあと  
遠くで微かに波の音が聞こえた。
そして耳かきはボクの意識の中で、
堅さの中にも、不思議な柔らかさを増し、
しなやかにしなやかに…
やがてその先端はアリクイの舌となり、総てをなめとるようにボクの耳の中を侵してゆく。
奥へ奥へ…

 官能小説か。日本昔ばなしのような画風なのに異様にエロい。


中学生の初体験

 手首の角度で耳の各所を掻いているという表現は「耳かきお蝶」でも使われていた手法ですが、この漫画は耳かきという道具そのものにもフォーカスしており、異様なフェティシズムを誘発します。これが自分の耳の中で蠢いているところを想像するだけでマニア(俺)は恍惚に包まれるのです。なんと倒錯的な。


つつつ……と撫でる


しなる耳かき


剥がれる


くまなく刺激

 山本さんは子供にだって容赦はしません。


もぞもぞ

 絶対何か開発されてるよ、これ。

 これは脳髄の芯のところに訴えかけてくる漫画。読んでるだけで後頭部がボヤッとしてくるのです。耳かきによるリラックス時に出てくる脳汁的な何かがこの漫画を読むことでも出ているのは間違いありません。

 ただし、ある程度鍛えられたマニア限定でしょうか。ストーリーは耳かきのカタルシスに至るまでの前フリに過ぎないので、耳かきシーンに価値を見いだせないのであればただの平坦な物語になってしまいます。

 この漫画を心底楽しむためには耳かき店の客と自分を同一化し、妄想力により耳かきの心地良さを自己の中で再生できる能力を持っている必要があります。

 端的に表現するとそういう人は「変態」というんですがね。いいよもう変態で。


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