弁護側の証人 (集英社文庫)弁護側の証人 (集英社文庫)
著者:小泉 喜美子
販売元:集英社
発売日:2009-04-17
おすすめ度:4.0


 ミステリを読む楽しみといったら、綺麗に騙されて悔しがることですが、うまく騙されるには運もあると思うのですよね。

 「意外な真相」ってのには読めば読むほど耐性がついてしまうので、ある程度読み慣れてしまうと、どんでん返しが予想できてしまったりする。逆に読みなれた人に「ああ、このパターンか」と思わせて裏をかくような作りだと、初心者は100%楽しめない。

 ミステリはその本を読むのに「最適な読解力」みたいなもんがある。鋭すぎても良くないし、鈍すぎても面白くない。ちょうど自分がその旬にいるときにその本に出合えれば幸せに騙されることができる、と。そんなことを考えます。

 つまり、そういう「旬な人」のボリュームゾーンが広い作品こそが名作たりえる(=名作、ではなく)のかな、と漠然と思っていたのですが。


 この作品は2chの「やられた!」スレで知ったのですが、名作と評される一方で、トリックの存在にすら気づかないで読了してしまったという人もやたらと多い。で、俄然興味を引かれた。

 俺? 俺は思いっきりミスディレクション踏んづけて、それはそれは綺麗に騙されましたとも。アレとかアレ(タイトル挙げるとネタが推察できてしまうので伏せます)も読んでたのになー。くそっ悔しい! 楽しい!!

 資産家の殺害容疑がかかった被告の無罪を勝ち取れるか否か? という法廷物。ストーリーは驚くほどシンプルで、「意外な展開」というものがこの小説にはありません。なので騙され損ねるとスーッと何事もなく読み終わってしまうのですね。

 確かに、ごてごてとした装飾のない簡潔な文章だけに、仕掛けに嵌らない場合は本当に気づかずに読んでしまいそうです。逆に、引っかかる人にとっては、その手口は実に鮮やか。必要最小限の描写はそれゆえにそこに至るまでの違和感を感じさせず、「そのシーン」で読者を混乱のズンドコに突き落とします。

 え? え? 何? 何が起こったの? この本落丁? それとも新手のスタンド使い? と思って頭に戻って読み返してみると、うわっ、やられた。ちゃんと「それ」は描かれてるし辻褄も合ってるよ……。となる。

 そして結末までを読み終わり、改めて最初から読み直すと、非常に無駄のない文章の美しさが分かる。余計な言葉でごまかさず、人の心情を巧みに利用して文章に仕掛けを織り込んでいる手腕に驚きます。

 40年以上前の作品ということで、所々古さを感じさせる部分はあるのですが、騙される楽しさという本質部分は全く古びていません。是非とも穿った読み方をして、スパッと騙されてみましょう。悔しくて楽しいから。

 あと、amazonの書評は読まないほうがいいです。すんごいネタバレレビューが混ざっているので。


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