有頂天家族有頂天家族
著者:森見 登美彦
販売元:幻冬舎
発売日:2007-09-25
おすすめ度:4.5


 洛中には多くの狸が地を這って暮らしている。狸たちは天狗から教養や化け方の心得を学び、時には人間社会に紛れ、面白おかしく生きている。日本の歴史は狸と天狗と人間の三つ巴で織り成されているのでした。


 狸界の長「偽右衛門」であった父、下鴨総一郎は物好きな人間に狸鍋にされこの世を去ってしまった。母と共に残された四兄弟は、偉大な父の血を中途半端に受け継いだ者ばかり。

 生真面目で堅物、しかし想定外の事態にはすぐにパニックを起こす長男、蛙に化けて井戸に引きこもる暢気な次男、面白ければそれでいいと、狸のしきたりをおざなりにする三男、臆病で怖い目にあうとすぐに化けの皮が剥がれてしまう四男。この四兄弟を中心に描かれる、狸と天狗と人間の化かし合い。

 森見登美彦の小説は初めて読みましたが、大真面目な顔でふざけているような文体がとても良かった。

狸柄はまさに春風駘蕩無欲恬淡、慈悲心に富み、無類の酒好き将棋好き、嫌ったものは不味い酒とちんけな縄張り争いであった。しかしひとたび争うと決まれば、これと睨んだ相手を鬼人のごとき策略と腕力と化力の三位一体で、容赦なく木っ端ミジンコにした。

 亡き父、総一郎がいかに偉大な狸であったかという語り。この流れで「木っ端ミジンコ」はないよ。こんな使い古された表現で吹いてしまった。くやしい。

 全七章。いがみ合う夷川家との小競り合いや、狸鍋を食う「金曜日倶楽部」の恐怖、新しい「偽右衛門」の決定に向けて錯綜する謀略。気ままに生きる狸の世界にも、それなりに事件が起こります。

 出来損ないの四兄弟は出来損ないなりに、家族のために一致団結、力を合わせて補いあって、苦難を乗り越える。

 ですが、「阿呆の血」が脈々と流れる狸たちの物語ですから、全体的にどこか間の抜けたのほほんとした空気が流れます。家族の絶体絶命のピンチを救うために死に物狂いになっている本人達が、やってるうちに何だか愉快になっちゃってる。

 しかしそれがいい。「面白きことは良きことなり」という阿呆の理屈はいつの間にか自分にも伝染して、一緒に楽しんでいる。テーマであろう「家族愛」に感じ入るよりも先に、ただ単純に「痛快で面白いだけの小説」として読んでいる。お気楽で能天気な狸にならい、頭カラッポにして共にお祭り騒ぎに乗っていける。

 「面白いだけ」とか「頭カラッポ」というのは作者に失礼という向きもあるでしょうが、俺はそうは思いません。だって狸にとって「面白きことは良きこと」なんだから。

 ホラ話は楽しんだ者勝ちだよね。


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