国民クイズ (上巻) (Ohta comics)国民クイズ (上巻) (Ohta comics)
著者:杉元 伶一
販売元:太田出版
発売日:2001-07
おすすめ度:5.0

国民クイズ (下巻) (Ohta comics)国民クイズ (下巻) (Ohta comics)
著者:杉元 伶一
販売元:太田出版
発売日:2001-07
おすすめ度:5.0


 「エッフェル塔が欲しい!」
 「阪神タイガースを優勝させてくれ!」
 「隣の奥さんを殺してちょうだい!」


 どんな突飛な願いでも、クイズに勝てば叶えます。日本国家の威信にかけて。「あなたのための全体主義」、それが    

国民クイズ!!
国民クイズ!!

 あ、ちなみに不合格者はシベリアで強制労働だから。がんばってね。
 議会制民主主義は崩壊し、すべての国民がクイズによって権利を勝ち取る近未来の日本。それが国民クイズの世界です。

 クイズの出場者には、その願いの大きさに応じた目標得点が設定され、それを達成すればどんな願いも国策として政府が叶えてくれる。ただし、不合格の場合は、反社会的欲望を抱いたとして財産は全て没収、刑務所に収監され、不足点数分の強制労働が待っている。

司会のK井K一
司会のK井K一

 国民クイズ体制は勝者の欲望を充足させるためには他者を蹂躙することも是とします。最も端的なのが、「あいつを殺してくれ」という願い。国民クイズの元では勿論それも全肯定されます。

 そればかりか、願いを叶える「賞与映像」が、毎日放映されるクイズ本戦前のエンターテインメントとして国民に供されます。

賞与実行
賞与実行
 
 このあとの惨殺シーンで歓声を上げる国民クイズ出場者たち。何故ならその映像はどんな欲望でも実現できることを証明しているから。狂ってます。こういった欲望と狂気の煮凝りがこの作品です。

 ディストピアものといえば全体主義による徹底した管理社会というのが定番ですが、この作品はその真逆というところが面白い。全体主義は国家のために個人の自由や尊厳が抑制されますが、国民クイズのスローガンは「あなたのための全体主義」。クイズ合格者の権利のために国家が動くという、度を越した個人主義です。

 個人的欲望のために理不尽なルールで組みあがっていく社会。日本は世界最大の経済大国となり、諸外国は頭が上がらないという設定なので、不特定多数の個人的都合によってまさに全世界が引っかき回されるわけです。

9アウト
熱狂的阪神ファンの賞与

 当然、蹂躙される者の中には不満分子が現れます。革命だ、国家転覆だといった方向へ向かうのがディストピアのお約束。この作品も例外ではないんですが、その流れの中で強烈なエネルギーを発しているのが国民クイズ司会の怪人・K井K一。

 彼自身、国民クイズの「B級不合格者」であり、司会をしているのはその代償。国民クイズの放送時間以外は拘束着で刑務所に転がされているK井ですが、いざステージに立てば国民の欲望を煽りたて、それをマイク一本でかき混ぜるような司会を果たす。

 全日本国民のみならず、全世界が注目する国民クイズの司会。98%の国民の支持を受け、圧倒的な影響力を持ちながらも、その実は囚人。体制と反体制の狭間に立つ男。

 その彼が政府と反体制組織のどちらに付くのかが見所。どちらの思惑にも沿わずに、全国民を手玉に取る「革命」前夜のアドリブはまさに怪演。K井は熱狂を操る魔人となる。

さあ 華を!!
祝砲を!! 国民クイズにまばゆい光の華を贈ってくれたまえ!!

 世界を動かすのはアジテーター。ここに至るともう完全にK井のパワーに毒されています。ここから結末へ向けての疾走感、国民が選んだ「革命」後の日本、K井の行く末。読者は休む暇もありゃしない。

 見ての通り、かなり癖のある絵柄なので敬遠する人も多いと思いますが、漫画好きならこれを読まないのは本当に勿体無い。読後にグッタリ疲れる漫画というのもたまには良いもんですよ。


関連記事
  ドロヘドロ/林田球