おひっこし―竹易てあし漫画全集 (アフタヌーンKC)おひっこし―竹易てあし漫画全集 (アフタヌーンKC)
著者:沙村 広明
販売元:講談社
発売日:2002-06-21
おすすめ度:5.0


 実は沙村広明の本領はギャグ漫画にあるのではなかろうか。

 沙村広明が竹易てあし名義で描いた作品集。表題作「おひっこし」、「少女漫画家無宿 涙のランチョン日記」、「みどろヶ池に修羅を見た」の3作品。どれもたたみ掛ける様な小ネタ満載のバカコメディ。
 面白いギャグ漫画を描く人というのは独特な言語感覚を持っていることが多いように思います。沙村広明もそう。普段は「無限の住人」などのシリアスな作品を描いている反動でしょうか、溜め込まれたお笑い成分は会話の中に間髪をいれずに現れます。

ナポリな感じ
実録漫画「みどろヶ池に修羅を見た」

 京都駅をデザインしたのがイタリア人建築家だという話。こういう言語センスが全編にわたって発揮されています。

 大学ゼミ周りの人間模様を描いたラブコメ「おひっこし」は学生生活独特のグダグダ感の再現が素晴らしい。煮詰まってきた飲み会の風景とか。その上にこれでもかと詰め込まれる言葉遊び、パロディ、楽屋ネタ。マニアックになりすぎず、元ネタを知らなくてもギリギリ分かるというバランス感覚もいい。もちろん分かればなお面白い。

「…………お前くらい言いたい放題言えたら日本人はハゲずにすむのにな」
「とにかく「デス」とか「グラインド」とか冠詞に付かないジャンルだったら何でもいいです!」
「(……誠意ってなんだろう 宗教用語……?)」
「…………何だっけこの車 昔晴海の催事場で見た……」
「……アタシはいとこンちのコロタン文庫で……」
「おめーみたいな女がアレだろ? アンケートで「好きなタイプは→自分を持ってる人」とか あーゆー薄っぺらな答え書くんだろ」

好きな呪文はザラキ
好きな呪文はザラキ

 強調は原文ママ。息もつかせずに名言が差し挟まれるので、どこをピックアップして紹介したものか非常に悩みます。

お前以外の人間は全員お前じゃねェんだよ
「お前以外の人間は全員お前じゃねェんだよ!!」

 汎用性を考えるとこれが一番ですかね。いつか使ってみたい。

 セリフ回しにフォーカスを当てて紹介してきましたが、ストーリー漫画としても完成度が高い。「おひっこし」は若気のアレやソレがむせ返るようなラブコメですし、「涙のランチョン日記」に至っては、テーマが「人生」。一人の少女漫画家が「巨匠」と呼ばれるまでを描いた作品。

 少女漫画家 → 打ち切り → 喫茶店の住み込みバイト → 火事で店がなくなる → 男と同棲 → 男が浮気 → ヤクザの代打ち → (中略) → 少女漫画家として復帰 → 圧倒的な人生経験を元に傑作を生み出す

 断片を観るとシリアスに見えなくもないこのバカ漫画はストーリー全体が一つのギャグ。「おひっこし」以上に、真剣にふざけていることが良く分かる、珠玉の一品です。

ダメ 寒い
ダメ 寒い

 いや、そんなことはないですよ。ほんとに。