幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)
著者:クラーク
販売元:光文社
発売日:2007-11-08
おすすめ度:4.0


 21世紀、火星探査隊の出発を目前にしてプロジェクトは頓挫する。何故なら人類をはるかに超える知性とテクノロジーをもった宇宙人の大船団が飛来したから。人類は彼らを「オーヴァーロード(最高君主)」と呼び、その支配下に入ることになる。
 オーヴァーロードが行うのは極めて平和的な支配。戦争を禁じ、狩猟など、生きるため以外の殺戮を禁じる。国家の垣根を取り払い、地球連邦を実現させる。テクノロジーを人類に与え、歴史上初めて戦争も食糧難もない平和な世界がそこに生まれる。

 しかしただ一つ、人類に疑念を抱かせる点がオーヴァーロードにはあった。絶対にその姿を見せないのだ。

 と、導入はこんな感じです。オーヴァーロードがその姿を見せないのは何故なのか? 目的は何なのか? その疑問を持ちながらも人類は繁栄を極めます。そして、オーヴァーロードの目的が明らかになるとき、それが「幼年期の終わり」です。

 オーヴァーロードに保護される「幼年期」を終えた世界の終着点。ほんの数ページ、一人の人間からオーヴァーロードへの通信という形で描写されるそれは荘厳で美しく、圧倒的。50年以上も前の作品だというのに、描かれているものがあまりにも大きい。

 そのせいか、読み終わったあとの「取り残され感」にしばし脱力。「幼年期」側の人類としては、何だか寂しくなるんですよ。

 古典SFの傑作と言われる作品だけあって、読んでいると何処かで観たようなシーン・何処かで聞いたようなエピソードを思い浮かべます。それだけ多くの作品に影響を与えているということなんでしょう。

 そりゃそうだ。これだけの骨子が既に確立されていたら、その後のこの系統の話(大体想像がつくとと思いますが、具体的には自分で読んで確かめてください)は意識せざるを得ない。この物語はSFのぶっとい背骨なんだな、と思えます。SFに何本背骨があるかは知らないけど。

 あまり(全く、とは言わない)古臭さを感じさせないのは、文章がシンプルで平易なことに加えて、そういったオマージュ作品の記憶による脳内補完が大きいのかも知れません。

 やっぱり古典というのは読んでおくべきですね。少なくともSFに限ってはマニアのよく言う「1000冊読んでから語れ」というのは的を射ているんでしょう。

 まあ、そういう上から目線の物言いは大嫌いなので、読んだら面白いつまらないぐらいは語るけど。折角読んだのに腹の中にしまったまんまじゃ勿体無いですよね。


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