って言っていた同級生のD君は今頃どうなっているだろうか。彼のプランでは今頃年収1000万を突破しているはずだけど。

 職場で来年度の新卒配属がどうのという話を聞いて彼の事を思い出したので、特に大したオチのない体験談を長々と書きます。

 強いて言うなら、長らく会っていない友人から突然連絡が有ったら気をつけようね、という話。


どう見てもおっさん

 当時俺は就職したばかりで五反田に住んでおりました。試用期間で研修漬けの毎日。定時上がりで持て余した時間を自室でのてのてと過ごしているところへ、知らない番号からの着信が。

「もしもし、○○(俺)君? 俺分かる? Dだけど」
「うぉ、Dちゃん!? 久しぶりー!!」

 D君は地元の友達。幼稚園から中学まで同じ学校。地区のソフトボールチームや中学の部活なんかも一緒。特別仲が良かったというわけでもないが、互いに遠慮せずに話ができる間柄。

「○○君、今五反田なんだって? 俺近くに来てるから飲もうよ」
「おー、行く行く」

 ってんで、五反田駅で待ち合わせ。中学卒業以来、約10年ぶりに会うD君は整髪料でびっちり固めたオールバックにダブルのスーツ。

 ……お前本当に20代か?

 横に長い体格のせいで余計に老けて見えた。


五反田東口のチェーン居酒屋にて

「○○君、XXに就職したんだって? 給料いいの?」
「(直球だな)諸々引いて手取りで18万位。この業種の院卒は皆こんなもんじゃない」
「もっと貰えるもんかと思ってた」
「まあまだ殆ど残業もないしね。Dちゃんは何してんの?」
「内緒」
「なんだそりゃ」

 仕事はさておき、D君は「社会人サークル」に入っているらしい。定期的に勉強会を開いたり、週末にはフットサルやらバーベキューなんかもやったりするとか。

「そりゃ楽しそうでいいね」
「○○君も来れば? 勉強になるし友達も増えるよ!」
「そーねー」

      行かないけどね。知らん人苦手だし。とは言わなかった。

「俺仕事でよくこの辺来るからさ、また飯でも食おうよ」
「あーいいね」

 てな感じでその日は別れた。懐かしい友達と会って飲むというのも楽しいもんだ。

 帰ってから携帯を見ると、実家の母から「D君に電話番号を教えました。連絡が行くと思います。」というメールが入っていた。「さっき会ってきた」と返信。


その週の土曜日

 取り込みたてフカフカの洗濯物に埋もれて気分良く昼寝しているところにD君から着信。

「……はい」
「あ、○○君? こないだ話してたサークルの集まりがこれからあるんだけど来ない?」

 わあめんどくさい。

「ごめん、今起きたとこなんでやめとくわ」
「そうかー、じゃあまた今度」

 また誘われるのか。初対面の人と仲良くフットサル? バーベキュー? うん。考えるだけで気詰まりだな。次はきっちりお断りしよう。


翌週・水曜日

「今近くにいるんだけど飯でも食わん?」
「OK」

 で、五反田の韓国料理屋。

     やっぱり人生金を稼いでナンボだと思うんだよね俺は」
「何? 『金持ち父さん』でも読んだん?」
「あれは良い本だよ。○○君も読んだ方がいいよ」
「んー。じゃあそのうち読んでみるわ」
「例えばさ、『ベンツなんて必要ない、カローラで十分だ』って言う人でも金があればベンツ買うでしょ?」
「金が余って余ってしょうがなかったら買うかもね」

 俺は車なんて足になれば良いという人間なので、あまりピンとこない。
D君は我が意を得たりとばかりに続ける。

「でしょ。だから人生楽しく生きるためにはとにかく金が稼げるようにならなきゃいけないんだよ。ベンツ乗りたいでしょ?」
「まぁ、金は大事だよね(ベンツはどうでもいいけど)。『金で幸せは買えない』なんて言うけど金がなくて不幸になるケースはいっぱいあるしね」
「そうそう!! そうなんだよ!!」

 ……なんかすごく嬉しそう。

「俺ね、5年以内に起業して年収1000万超えるから」
「おお、すげー自信だね。そこまで言うからにはいい事業のアイデアがあるんでしょ? 真似しないからちょっと教えてよ」
「それはこれから考える」

 は?

何かを。
何かを。


起業セミナー

「……ごめん、意味が良く分からなかった。何て?」
「俺、社会人サークルに入ってるって言ったでしょ? ある会社が主催しててね、仕事のためのスキルを教えてくれるんだよ。普通は30代後半から40代ぐらいの課長クラスの人が教わるようなビジネステクニックを20代の若い奴だけ集めて教えようってとこなんだ」

 ふーん。それで?

「○○君も来てみない? 入会したらお金要るけど、話聞くだけならタダだし、会社でも役に立つから給料倍になったって奴がいっぱいいるよ。
たとえば俺の給料今いくらだと思う?」


 俺は根性悪いのでこういうときは多めに答える。

「手取りで30万ぐらい?」
「う…うん、まあその位だね。その位すぐに稼げるようになるわけ」

 目が泳いでるぞ。


人生の勝ちを確信したような顔で

 曰く。
  • 若い起業家を生み出すためのセミナーだ
  • 2010年までに受講生の手で関連会社を100社起業させる
  • 既に関連会社はいくつもあって、主催者は3つの会社を経営している。そのセミナーも事業のひとつ
  • 関連会社の経営者は皆セミナーの同窓生だから協力しあえる
  • 「ナタデココを初めて日本に持ち込んだ男」など「すごい人」のためになる話が聞ける
  • 「やる気」のある仲間と出会える。自分は新宿を歩くと大体知り合いに会うようになった。顔パスの店も多い
  • 合コンにも使えるからモテる
  • 俺は仕事もプライベートも超充実している
「ははは。Dちゃん、嫌な事言うよ?」
「うん?」
「超うさんくせぇ」
「いや、本当に勉強になるんだって!! 来れば分かるから!!」
「だってDちゃん、メチャクチャ足元浮ついてるじゃん。プランも無しに『5年後に年収1000万』とか言われても普通信じないよ?」
「今は起業するための基礎を作っているところなんだよ!! 皆本気で起業しようと考えてる仲間の集まりだから、あいつらと一緒にやれば絶対できるって!!」

くっしー君
こんなだった

 あちゃあ。タチの悪い自己啓発セミナーにでも引っかかったんだろうか。就職したばかりで起業になんか興味がない、と此方がいくら固辞しても「それは意識が低い」「来れば分かる」の一点張り。


聞きゃあしないので譲歩した

「じゃあそのセミナーの案内か何か持ってきてよ。それだけちゃんとしたトコならパンフぐらい有るでしょ。それ見て参加する価値があると思ったら行くよ」

 とりあえずその場での回答を避ける。

「うーん……分かった、パンフね。……本当は説明会に来ないと詳しいことは教えられないんだけど、○○君は特別ね」

 恩着せがましいなオイ。

 結局、土曜日に資料を持ってきてもらい説明を受けるということで話は纏まった。

「近いうちにK達も呼んで皆で飲もうよ」

 Kは小学校5年生の時に転校してきた友達。それも良いね、大体暇してるからいつでも声かけてよ。と言って別れた。

 俺はこの時の事が原因で、ロバート・キヨサキの本は手に取る気すら起こらない。


「社会人サークル」「悪徳商法」 −> 検索

 一発で特定できた。「株式会社メディウス」だ。

 「社会人サークル」「2010年までに関連会社100社」「ナタデココ」「金の話ばっかり」「カローラとベンツ」「髪型はオールバック」

 あらゆる要素が合致する。完璧に騙されてるよD君!!

 メディウスについて分かったこと。
  • 20代の男だけをターゲットに、FDPと呼ばれる教材セットとセミナーへの参加権を高額で販売する会社である。もちろん相場からはかけ離れている。
  • 販売の手口はマルチやキャッチセールスとほぼ一緒。狭いパーティションの中で説明を続け、相手が購入を了承するまで何時間でも粘り続ける。
  • オフィスは新宿。契約者は毎日のように呼びつけられ、「ビジネステクニックの実践」と称して知人を勧誘することを強要される。
  • 勧誘の実態はこんな感じらしい。
 いやー、調べたら出るわ出るわ。「悪徳商法マニアックス」「苦情の坩堝」「2chベンチャー板の『メディウススレッド』」。マルチまがいの悪質な勧誘の被害報告がわんさと。こないだの呼び出しにノコノコ顔出してたら俺も同じ目に遭わされた訳か。人見知りもたまには役に立つ。

 何とかして目を覚まさせてやることはできないだろうか。とりあえず調べたページは片っ端からプリントアウトしておいた。


ライス大盛り

 D君が説明の場所として指定してきたのは新宿のサイゼリヤ。「仕事が長引きそうなので遅れる」とのメールが来るが、俺は俺で道を間違えて代々木の辺りまで歩いて行ってしまった為、30分程度遅れてほぼ時間差なく合流。

 俺はハンバーグのセットを注文、ライス大盛り。D君はチキンソテーか何かだったと思う。単品。

「あれ? ライスとか頼まんの?」
「いや、俺腹へってないから」

 だったらコーヒーでも飲めばいいのに変な頼み方だ。「メディウスメンバーは借金だらけ」とネットに書かれていたのを思い出した。

 47万円の教材を買う際に借金をさせられ、別料金の特別セミナーやパーティやらでぼったくられる。そうして続ける事が困難になった挙句にドロップアウト、メディウス用語で「飛ぶ」のだそうだ。

 大盛りで頼んだライスが残ったので聞いてみた。

「余っちゃったんだけど食わない?」
「じゃあ遠慮なく」

 腹減ってない割にはがつがつ食っている。やっぱり金ないんだろうか。


株式会社メディウス

「じゃあまず、セミナーを主催している会社について説明するね」

 差し出されたのはD君の名前が書かれたメディウスの名刺。ああ、やっぱりメディウスか。……ていうかコイツ社員じゃねーか!

 よく見ると、襟元に輝く金銀のバッジ。

15 名前: 山下50万 投稿日: 2001/06/24(日) 23:25

ちなみに社員のバッチは・・・
四角いバッチです。マークはメディウスの公式ページを見てみて。それがマークで色は緑、銅、銀、金と銀、金の5つのバッチがあり、緑バッチをしている人間は社員という名のただ働きで給料はもらっていない。金のやつはかなりえらい社員で騙すテクは超一流。ちかくにいたら近寄っちゃだめよぉ
http://yasai.2ch.net/venture/kako/993/993389184.html

 ズブズブじゃねーか!!

 予想を下回り過ぎてなんだか楽しくなってきた。知らんフリして話を聞き続けるが、結局五反田で聞いたのと大差ない具体性のない話を繰り返すのみ。遮って聞く。

「で、パンフは? 持ってくる約束だったよね?」
「……あぁ、会社に忘れてきた」

 無いんだろ、そんなもん。自分たちのフィールドに連れ込んで強引に契約とるならそんなもの作る必要ないもんな。

 D君はメディウスの素晴らしさを綿々と語り続ける。強力な人脈ができるだの、人を動かすテクニックが学べるだの。自分はメディウスと出会わなければパチプロになってその日暮らしをしていたかも知れない、とも。

 他人に迷惑をかけない分、パチプロのほうがマシだったね。

 
話は続く

     だからメンバーになれば人を説得する力が身に付くんだよ!! 自分じゃできないことでも出来る人を説得して味方につければいいんだよ。上に立つ人間はリーダーシップを発揮できればいいわけ」

 ……ああ、やっと分かった。こいつ馬鹿なんだ。自分は何にも出来ないくせに、口先だけで人を動かせると本気で信じてるんだ。

 つまりメディウスってのはこういう他力本願の馬鹿を量産した上で、起業だ、勝ち組だと煽って金を搾り取る会社って訳だ。

「教材は高いけど、ウチの会社でローンの紹介もしてるから。学研知ってるでしょ、『学習と科学』の。その系列の会社だから安心でしょ」

 知ってるよ、悪徳商法御用達の学研クレジットね。

「俺もここで金借りてるんだよ」

 アパレル店員みたいに言うなよ。
 (例:「自分もこのジャケット着てるんですよー」)

 大体「バリバリ稼げる金持ち」っていう設定じゃないのかお前は。

 ネットの情報によればメディウス社員は完全歩合制(違法)のため、教材が売れないと全く収入がなくなるらしい。大学や高校の知人は勧誘し尽くして、中学まで遡って連絡を取り始めたというのが実際のところか。

 だとすればよっぽど切羽詰ってるって事だ。


反論してみた

「そのセミナーが良いものだってのは良く分かったよ。でもその説明だけで大金は払えないな。会社に来ないと具体的な内容は言えない、なんておかしいでしょ?」
「みんな高級ブランド品買うのに店まで行くじゃない。それと一緒だよ」

「そりゃ実物がそこにしかないから。セミナーなんて形のないモノ売るならパンフなり、教材なり持ってきて説明するのが普通でしょ」
「でもブランドショップは商品持って歩かないじゃん」

ブランドは行商しねーよ!! あのね、ブランドには積み重ねてきた信用ってもんがあるの。君んとこには無い」
「でもそういう決まりだから」

「メディウスってビジネスの仕方を教えるとこなんでしょ? ビジネスの常識で考えてこういう売り方っておかしいと思わないの?」
「思わないね。モノが無くてもお互いの信頼のもとで納得して売り買いをするんだから全く問題ない。むしろ理想の形だよ

「最初『社会人サークル』って言ってたよね? それは嘘だった訳だけど、嘘ついてでも売るのが理想の形なん?」
それはセミナーが○○君のためになると思ったから。最初から会社名出したら勧誘だと思って引くでしょ?」

駄目だこいつ
お約束

 屁理屈だけは鍛えられるらしく、全く話がかみ合わない。変な新興宗教にはまった奴と話すとこんな感じなんじゃないだろうか。


切り札

「Dちゃん、家にネット環境ある?」
「無いけど」
「俺、こないだ話聞いて変だと思ったから色々調べたんだわ」

 プリントアウトした束を出す。2chスレもあるからすごい量。

「これ全部メディウスの悪い評判ね。例えばこれとかこれ読んでみ。嘘ついて連れて行かれた先で長時間拘束されたとか、高い教材を買った挙句にやらされるのは勧誘活動って書いてあるけど?」

 どうよ。ちょっとは目を覚ませ。

「この人達は被害者意識が入ってるね」

 開き直りやがったー!!

「ここに書いてある事は事実だって認めるわけね? 狭いところに閉じ込めて買うまで帰さないとか、売り文句と実際が全然違うって、まるっきり悪徳商法じゃん!!」
「だからそれは商品を売るためのテクニックなんだってば」

 やばい、開き直りじゃなくって本気で言っている。

「このやり方じゃマルチとかキャッチセールスと変わらないよね?」
「うちは違法じゃないし、どこでも普通にやってる事だよ。これがおかしいっていうのは○○君が世の中の事を分かってないからだよ

 うーん。馬鹿に馬鹿って言われるのは本当に腹立つなぁ。

「Dちゃんは世の中の事が分かってるんだ?」
「少なくとも○○君よりは分かってると思うよ。○○君は今手取り18万だっけ? その程度じゃ見えてこないこともあるんだよ」
 
 「手取り18万」の残飯がっついてた奴に言われたかないよ。


ギブアップ

「なぁDちゃん、こんなこと繰り返してると友達無くすよ?」
「そう? 俺は増えると思うけどね」

 今まさに一人減ったよ。それとも俺は始めっから友達にカウントされてなかったんだろうか。

「……○○君。俺はメディウスで帝王学を学んでるんだよ」

 いかん、この人何かスゲー面白い事言いだしちゃった!!

「魅力ある人間には部下も友達も自然と付いてくる。成功する人間はみんなそういうもんなんだよ。俺もね

天使の人だ!!
もうだめだ

 すいません、ギブアップでお願いします。


メディウスの帝王学

「OK、世の中見えてるDちゃん。そしたら俺は君が5年後に年収1000万円になってたら土下座してやるよ」
「いいよ、そんな事しなくて」
「いや、俺だって土下座なんてする気ないよ」
「だったらはじめから言わないでよ」

 こいつ本当に馬鹿だな。「お前には無理だ」って言ったんだよ。

「じゃあ俺帰るね。今日君と話した内容はそのまま他の友達にも伝えとくから。素晴らしい商品を売ってるんだから問題ないよね? じゃ、二度と電話してこないでねー」

 出来る限りで最高の笑顔を作って絶縁を宣言。伝票を取ってレジへ向かう……が、途中で意地の悪いことを思いついたので引き返す。

「自分の食事代払わないの?」
「それは○○君がさっさと伝票持ってっちゃったから……」
「じゃあ奢ってくれる? 稼いでんでしょ?」
「それはちょっと……」
「いいよ、俺が払っとく。大した帝王学だね。そんじゃ」

 今度の嫌味はさすがに通じただろうか。相手に金がないと踏んだ上でこういうことを言う俺も大概性格が悪いが、ずっと人を見下したような態度を取り続けられてイライラしていたのだ。この位は言ってもいいだろう。


まだ終わらない

 帰り道、気が付けば店についてから3時間近く経っている。

 感じるのは怒りではなく情けなさ。こんな勧誘に乗ると思われていたこと、こんなくだらないことに無駄な時間を使ってしまったこと、なによりD君の目を覚ましてやれなかったこと……はどうでもいいな。せいぜい借金まみれになって苦労しやがれバーカバーカ。

 君付けで書くのすら嫌になってきた。あんな奴DだD。

 身内がこんなもんに引っかかったらそれこそ縛り付けてでも足を洗わせるが、10年間連絡も取っていなかった同級生にそこまでエネルギーを費やすほど俺は優しくない。かわいそうな奴だとは思うけどね。

 でも、まだ終わらない。Dに宣言した通り、友達にこの事を話して被害の拡大を防がなくてはいけない。

 実家の母に連絡して、卒業アルバムからめぼしい友人の電話番号を調べてもらう。夜も遅かったので、連絡するのは翌日にした。

 とにかく疲れた。無駄に。


逆テレアポ

 地元の友達に片っ端から電話をかけていく。Dが変な商売にはまっていること、会社名はメディウスであること、本人は素晴らしい商品だと信じているが評判はすこぶる悪いことを伝える。おそらく本人は善意で勧めてきているのだろうとも。

 会うときはいきなり新宿のオフィスには行かないこと。話を聞いて良いものだと思っても即決はせず、自分で調べてから契約したほうがいい。

 俺がDと縁を切ったことは言わずにそう伝える。何もここでいらん悪口を言って他の友達とまでギクシャクさせる必要もない。絶対契約するな、なんて言う筋合いもないしね。

 あらかた連絡は終えたのだが、唯一連絡が取れないのが先日Dとの会話で名前が出てきたK。実家に電話するとK母が出たのだが、「Kはいません」「夜遅くて、いつ帰ってくるかも分かりません」とのこと。またかける、と伝えて切った。

 翌日、また電話してみる。やっぱりいないとの事。電話番号を伝えて折り返し電話をもらえるように頼む。その日はかかってこなかった。

 さらに翌日も電話。

「もしもし」
「あ、Kか?」
「いえ、弟です」

 そういやKには同じ顔の弟が二人いた。声まで同じでやんの。弟にもこちらの電話番号を教えて伝言を頼む。今度はすぐにかかってきた。

「はい」
「もしもし、○○ちゃん? 久しぶりー!!」

 あら、なんかデジャブ。

「うん、久しぶり。4〜5年ぶりぐらいかな? えーとね、いきなりで悪いんだけど、最近Dちゃんから連絡なかった?」
「ああ、あったよ」

 うわ、先を越された。

「なんかセミナーの勧誘されなかった?」
「うん、契約した」

何だろう。
うわあああ。


「逃げて」

「マジで? 結構高かったよね? なんで契約したの?」
「一生懸命勧めてくるし、なんか明るくて楽しそうだったから」

 あー。こいつ素直だからなぁ。疑いの目を持って見なければ活気と熱意にあふれてるように見えるかもしれないな。

「俺ちょっと調べたんだけどね。勧誘の仕方とかで結構悪い評判もあったんだよ。Kが良いと思ったんならやればいいと思うけどさ。親はなんて言ってんの?」
「親には話してないよ」
「はぁ!? 何で? 実家なのに」
「絶対言うなって言われたから」

 アホかー!! 素直にも程がある。と、ここでピンときた。「良いもの」を薦めているつもりならば何故口止めをする必要がある?

「K、それ契約したのっていつ?」
「えっと、先週の土曜日だね。4時に新宿の会社に行ったよ」

 「怒りで視界が真っ赤になる」なんて表現があるけども、あれは違うね。本当に怒ると露出オーバーの写真みたいに白っぽくなる。瞳孔が開くんだろうか。

「ふざけんなあの野郎!!」

 電話口で叫んだのは初めて。

「俺が勧誘されたのもその日なんだよ!! あいつ直前にお前に会ってることなんか一言も言わなかったよ。『K達と集まって飲みたいね』なんて言っていたにもかかわらず!! どういう事か分かるよな? 一人づつ呼び出して確実に契約させる為だよ。二人で相談されたら困るからだよ!! 『懐かしいから会いたい』とか『君のためになると思うから勧めてる』なんてのは嘘っぱちで、はじめっから俺達の事を金ヅルとしか見てなかったって事だよ!!」

 興奮して一気に捲し立てたのを覚えている。あの時30分遅れて来たのはKを「落とす」のに手こずってたからって訳か。馬鹿にしやがって。

「K、俺はそれすぐに解約したほうがいいと思う。クーリングオフってのがあるから一週間かそこらの間は返品できるから。まずは全部親に話しな。それで続けるかやめるか判断すればいいから」

 Kもネット環境が無いというので、その場で消費者センターの相談ダイヤルを調べて伝えた。

 この事で「Dは馬鹿なだけで、純粋な善意で勧誘している」と思っていた自分に気づいた。さんざん他人をハメた成果で金ピカのバッジをしていたのにもかかわらず。「(元)友達が自分を騙すつもりで近づいてきた」と考える事を無意識に避けていたんだな。俺もよっぽどおめでたい。

 ああ畜生。こんな事なら別れ際に嫌味なんて言ってないで、ドラマみたいに水ぶっかけてやれば良かった。

 
後日談

 無事解約できたKから感謝の電話がかかってきた。クーリングオフされたことを知ったDはなんとKの実家まで押しかけてきたそうだ。俺達の地元は見渡す限りの田園が広がるド田舎。わざわざご苦労なことだ。

 全てを聞いていたK母が応じたらしい。K母は女手ひとつで息子3人を育ててきた人。メディウス仕込みのスカスカな成功哲学や「説得力」とやらはあっさり一蹴され、逆に説教されて逃げ帰っていったそうだ。

 ちょっとは溜飲が下がった。さすがK母。会ったことないけど。

 あ。

「ひょっとして俺の電話って、お母さんに悪徳商法だと思われてた?」
「大丈夫、今回の件で誤解はとけたから」

あいたー
あいたー

 そりゃいきなり面識のない「自称同級生」から電話かかってきたら警戒するよなあ。連絡がなかなか取れなかったのはそういう訳か。

「困ったときに助けてくれる友達は大切にしろってさ」

 そりゃ救われますね。


後日談・その2

 半年後。年末の帰省時に母から聞いた話。

 農協の朝市か何か(そういう土地柄)でたまたまD母と会ったそうだ。そこで「Dは今埼玉で働いている」と聞いたとか。

 メディウス末端社員の末路。教材を販売できない社員は関連会社に飛ばされて安月給でコキ使われる。もしくは借金抱えたまま「飛ぶ」。もちろんネットで調べた限りだけれど。

 あるいは見事起業に成功して、埼玉にオフィスを構えた可能性も……ないよな、あれからたった半年で。何年も会っていなかった俺の所に来てる時点でもうギリギリだった筈なんだ。だとすれば「飛ばされた」のか、「飛んだ」のか。どちらにせよ碌な目に遭ってないだろう。

 あれから5年以上経つ。Dの年収は1000万を超えただろうか。もしいつか、偶然にでも行き会うことがあったらこう言ってやろうと思っている。

『よう、大社長。』




 以上、おしまい。想像以上に長くなりました。

 その後しばらく2chのメディウススレッドをチェックしていましたが、そのうちメディウスという会社自体がなくなりました。

 幹部は社名を変えて同じようなことを続けているみたい。似たような自己啓発セミナーの話を聞いたことがある人は「メディウス」「悪徳商法」とかで調べてみてください。すぐ見つかりますので。


画像出典・上から
THE3名様/石原まこちん
最近のヒロシ。/田丸浩史
DEATH NOTE/大場つぐみ,小畑健
みんなはどう?メガキューブ/G=ヒコロウ
不死身探偵オルロック完全版/G=ヒコロウ
行け!稲中卓球部/古谷実