毎月新聞


 時々「小説イヤイヤ期間」がやってくる。今月入ったあたりからポコっとそのエアポケットに嵌った感じなので、読書傾向が雑学・コラム系に偏っている今日このごろです。でも読みたい本は山とあるので全く困らない。

 この本は毎日新聞に月イチ連載されていた佐藤雅彦氏のコラムを書籍化したもの。ナスカ展を見て何となく連想したのをきっかけに調べていたら結構な数の著作があったので、一つ手を出してみた。


 表紙にもなっている創刊準備号の「じゃないですか禁止令」からいきなり引き込まれる。「〜じゃないですか」。俺この言葉嫌いなんですよね。「ありえない」に似た釈然としないものを感じて。
「こういう仕事って、手間がかかるじゃないですか」
なぜ自分はめんどくさいと言えないのか。
 佐藤氏はこの便利すぎる「〜じゃないですか」に警鐘を鳴らす。この言葉は物事を強制的に一般論に置き換えて同意を求めることで発言者の責任をうやむやにしてしまうというんだな。

 それだ! 俺がこの言葉に感じてたモヤモヤは。

 こういった「あー、分かる分かる」がこの本には満載されています。「誰もが考えもしなかった」ではなく「誰もが感じたことはある」事柄にスパッと気持ちいい説明をつけてくれる。

 「そうそう、そうなんだよ」と頷いて、それを見抜く発想力を羨ましく思う。目の前の事象を構成する要素から、当たり前すぎて気づけないものまで根こそぎ攫い、その中から使えるものを選り分ける力。体系の本質を見抜く力とでも言うのか。

 以下、この本の中で一番くだらないと思いつつも気にいっている「日常のクラクラ構造」からの引用。
 クラクラ構造は、いつもふいに現れる。先日、財布が壊れたので、1万円をポケットに入れデパートへ行った。気に入った財布が見つかったので店員さんを呼んだ。ポケットから1万円札を出して渡し、「今、使うので包まなくていいです」とそのまま財布をもらった。しばらくすると、その店員さんがおつりを持って戻ってきた。そのおつりを買ったばかりの財布に入れた  僕はまたクラクラしてしまった。今までポケットにあったお金でこの財布を買い、そのお釣りが財布の中に入ってしまう。「財布プラスおつり」が1万円。この一見当たり前と思える奇妙な構造は何なのだろう。
 ああくだらない。そして羨ましい。大事なのはこんなくだらないことに違和感を覚えることができるセンス。日常のつまんねえ事柄にさえいちいち引っかかりを覚えてはそれを面白がれるんだろう。この視点を盗めたら毎日楽しくて仕方ないぞきっと。

 プロフィールを見て驚いた。1954年生まれ。このコラムの連載が1998〜2002年。44歳から48歳の間に書かれたということになる。この年齢を感じさせない瑞々しい感性は一体どこから湧いてくるんだ。

 今気づいたんですが、amazonの商品画像を拡大する(「イメージを拡大」をクリック)と「じゃないですか禁止令」がギリギリ読めますね。興味のある方はお試し版として読んでみてはどうでしょうか。おすすめ。