光の帝国―常野物語


 最近よく「エンド・ゲーム―常野物語」の書評を見るので気になっていたのですが、シリーズもんらしいので第一弾であるこれを買ってきました。名前の響きから勝手に男だと思っていたのですが、女性作家なのね。

 全員が何らかの特殊能力を持つ「常野(とこの)」に連なる一族を追った短編集。それぞれが持つ力は様々で、「膨大な記憶力」だったり「未来を見通す目」だったり「発火能力」だったり。彼らは一族の名が示す通り権力の座に付くことはなく常に在野に散らばって、人の心を救ったり、地味に世界を守ったり、得体の知れない敵と戦っていたりする。こういう設定ってのはちょっと少年漫画的でワクワクする。


 あとがきで「手持ちのカードを使い切った」としているだけあって、綴られる物語もバリエーションに富んでいる。ベタ(でも好き)な「ちょっといい話」やゾクリとくる結末のサスペンス、不可解状況で足掻くホラー等。引き出し多いな。どれも面白いが、既に続編が書かれている「大きな引き出し」「オセロ・ゲーム」や、表題作の「光の帝国」、後に続く壮大なストーリーを思わせる「黒い塔」あたりがお気に入り。

 文章も女性的(と、言うんだろう)な柔らかい文体で、分かりやすく読みやすい。それでいて能力に関する用語なんかは全く説明がなかったりする。例えば超記憶能力者の『しまう』『響く』とか、何かと戦い続けている拝島家の『裏返す』能力とかね。こういうのに無駄な説明を割くことをせずに、ストーリーだけで「何だかすごいぞ」と分からせる。いいねこの手法。

 一族の能力者たちが無敵のヒーローでないのもいい。一つ二つの能力を除けば残るのはただの人間。何でもできるわけじゃーない。俺は例えば「坂の上の雲」のような「いろんな分野のエキスパートがそれぞれの力を駆使して一つの大きな目的を成し遂げる」という話が好きなのですが、是非ともこの一族を集結させたファンタジー版のソレが読んでみたい。巨大な陰謀とかをちょこっと打ち砕いてくんねーかなーと夢想してしまう。それを連想させるような描写もそこかしこに散見されるしね。構想はあるんじゃないだろうか。