死神の精度


 最近伊坂幸太郎の本がやたらプッシュされてるのは「陽気なギャングが地球を回す」が映画化されるからなんだろうか。以前これ読んで「惜しいなー」という感想を持ったのだけれど、何だかんだで好きなのでもう一冊。山ほど平積みされまくってる中から選んだ理由は単にタイトルが気に入ったから。

 主人公は死神。普通の人間として死亡予定者と接触し、7日間かけて予定者を観察。「可」か「見送り」の回答を出し、情報部へ報告。「可」なら8日目に調査対象は死ぬ。
 死ぬべき人間か、生きるべき人間か。それを見極め大岡裁きを下す死神の人情味あふれるヒューマンドラマになるかというと全くそんなことはなく、死神さんったらそりゃもうガンガン「可」出しまくる。だって人間的感情が無いからね。死神だから。

 この本での調査対象は6名。それぞれ独立した短編。正直1人目を読み終わった時には失敗したかと思ったんだが、死神のルールを上手く使った2人目から一気に引き込まれて最後の6人目まであっという間。

 任侠・恋愛・人生の意味なんてテーマを人間的思考を解さない死神に観察させる。かみ合わない会話と「その後」を嫌でも連想させる結末が楽しい。「ヒーローは死なず」(死ぬけど)な2人目の話とかいきなり死神の正体見破っちゃう6人目の老婆の世界観なんか特に好きだ。

 息抜き的に入ってるベタネタパロディがまたいい。調査対象が他数名と吹雪の洋館へ閉じ込められる。外に出ることは勿論、外部への連絡手段も絶たれる。情報部からは「その洋館の宿泊客、もう何人か「可」出てるから」。二重の意味で連続殺人確定! なんてくだらなくてステキな発想!

 難点はちょっと「ズレた会話」がクドいこと。会話にレトリックが出るたびに突っ込まなくてもよかろうよ。何千年も人間見てきてるなら学んでくれ。「陽気な〜」でも個性的な喋りが面白くもあったがやりすぎの感もあった。確かに面白いんだ。面白いんだけどちょっと鼻につく。

 とはいえそれは些細なことで。是非とも他の作品も読もうと思う。

 ちなみに一番面白かったセリフは
「今日の夕飯、もずく出るかなー」
「子供ならカレーとか言いなよ」

 話には全然関係ない。