オーデュボンの祈り


 「みんなが君を待っていた。さあ、どうだ」

 本でも音楽でもいいんですが、時々ざざざざざ、と鳥肌が立つフレーズに出くわすことがある。俺はこれに遭遇したくて本を読み、音楽を聴きつづけるのだな。「陽気なギャングが地球を回す」と「死神の精度」を読んで「気になっていた」位の伊坂幸太郎のデビュー作。こりゃー当たりでした。ざざざざざ。
 いきなりワケ分からない世界に放り込まれて右往左往していく話が大好きなのですよ。手持ちの本・DVDをざっと見ただけでも「クリムゾンの迷宮」とか「CUBE」とか「SAW」とか。「プリズナーNo.6」なんてのもあるな。

 眠りから覚めた伊藤が放り込まれていたのは火星でもバスルームでもなく日本とは少しだけ違う常識で動いている島。異常な世界に放り込まれた主人公を待ち受けているものはサバイバルと相場が決まっているんだが、この物語では何となくのほほーんと時間が経っていく。事件は起こるし謎はてんこ盛りなのだけれど何処となくのどか。だって普通に電気もガスもある生活ができる上に、目覚めたその日に「帰るなら、連れて行くぞ」とか言われんだもの。

 外界から遮断されている島で出会うのは奇人ばかり。ただ、それが所謂ミステリ的というよりは異なる世界の御伽話的な奇人という感じでノホホン感に拍車をかける。地面に寝そべり自分の心音を聞く少女、あべこべの事しか言わない画家、詩を愛する処刑人に太りすぎて動けなくなったウサギさん。その上喋るカカシまで。まさに伊藤さん(28)・イン・ワンダーランド。何書いてんだ俺。

 そんな島で起こった常識外れの「殺人」事件。じわりじわりと謎が明るみに出て行くというよりは、そこかしこにじっくりと撒いていった仕掛けが終盤でドミノ倒しのようにドカッと連鎖を起こして結末へ。「ああ、あれかあ」と膝を打つ。他ならそんなバカな、というドミノ倒しがこの世界では許される。良く出来てるわー。

 物語の根底には「この島には何かが欠けている」という江戸時代からの言い伝えがあるのだけれど、その「欠けているもの」の感じ方は人それぞれのもんですね。俺にとっては非常に大事なものだったので、俺はこの作品大好きです。